5月号

 

日本人イチローだからこそ確立できたルーティン


イチローが現役引退を発表した。日本で9年、アメリカで19年、計28年間のプロ生活で残した数々の記録。その多くが前人未到、そして今後も更新されそうもない領域の大記録であり、改めてイチローの凄さを実感させたが、それとともに感じた偉大さがある。その代表例が「ルーティン」だ。

ルーティンは日々の決まりごと、日課といった意味を持つ言葉だが、スポーツ心理学では集中力を高め、安定したパフォーマンスを発揮するために「決めた手順で行う動作」として重視されている。イチローはこのルーティンを徹底して行い、好結果を出し続けたことで注目された。ネクストバッターズサークルでは、両足を相撲の「股割り」のような形に開き両手をヒザに置いてストレッチ。打席に入る前はリラックスした状態でバットをゴルフスイングのように1回振り、バットをヒザに置いて屈伸。打席に入ったら内股で足場を決め、右手を伸ばしてバットを垂直にする。左手で右肩の袖を軽く引っ張り上げるようにして構えに入る。

打席は打者にとって戦いの場だ。どんなに場数を踏んでいても、打席に立ち投手と向かい合うと緊張する。心理状態も日々、微妙に異なる。だが、ルーティンとして同じ動作をすることで『平常心を取り戻し集中する』ことができる。戦闘モードにスイッチが入るということだ。イチローは打席に入る前だけでなく、日常生活でもルーティンを徹底していた。試合開始時間に合わせて起床と就寝の時間を決める。また、朝食も同じものを食べるようにしていたという。

イチローのルーティンの話を聞いてふと思うことは、永平寺の雲水と呼ばれる修行僧の日課だ。雲水の日課は330起床から始まり350暁天(きょうてん)座禅500朝課(朝のおつとめ)700小食(朝食)830作務(掃除などの作業)1000座禅1100 日中(昼の勤行)1200 行鉢 中食(昼食)1300 作務1400 座禅1600 晩課(夜の勤行)1700 薬石(夕食)1900  夜坐(夜の座禅)2100  開枕(消灯)で1日が終わる。この日課を何年も続けることで、心身は鍛えられ、やがて解脱し自由の境地に到達する。すなわち『悟りをひらく』ということだ。雲水の行うこのような『日課』は、さらに、佐賀鍋島の『葉隠』の1節「武士道と云ふは、死ぬ事と見付けたり」を思い起こす。普段から「常住死身に成る」の心得に従い、「死習う」ことを日課とした武士。毎朝起き掛けに、己の死をイメージし、一度死んでから1日を始める鍋島武士を描いた隆慶一郎氏著作の「死ぬことと見つけたり」は今でも強く私の心に刻まれている。なぜそこまで共感できるかといえば、それは私が『日本人』であり、和の心、和の精神が先祖代々から受け継がれた命となっているからではないだろうか。私には、とてもイチローの真似はできないが、イチローがプロ生活でルーティンを20年以上続けてこれたのもまた、彼が『日本人イチロー』であったればこそと思う。何はともあれ、私自身、日本人として和の文化、心、和の精神を大切に生き抜いていきたいものだ。

 

 

2019年5月1日より平成から令和へ元号が変わる。


『令和』は、万葉集にある歌の序文 ―

「時に 初春の『令』月にして 気淑く風『和』ぎ 梅は鏡前の粉を披き 蘭は 珮後の香を 薫らす」から二文字をとったとされている。

かな読みすると「ときに はつはるのれいげつにして きよくかぜやわらぎ うめはきょうぜんのこをひらき らんは はいごのこうを かをらす」

万葉集の歌に込められた想いと現代日本の置かれた状況を鑑みた時、日本人として今何が大事なことなのかを考えてみる。

『悠久の歴史と文化を引き継ぎ、明日への希望をつなぎ、それぞれの花を咲かせましょう。それはつまり、日本人ひとり一人が和の文化・和の精神・和の心をもって、たいせつに日々を過ごし、日本人としての誇りを胸に、日本の未来をみつめ、切り拓いていこう。』そんな想いが『令和』という元号には込められているのではないだろうか。そう私はうけとめて、新しい時代に向き合うことにする。

 

コトウダグループ(古藤田グループ)